三日月の夜に‥‥。
10月。
彼女は予定どおり、俺の部屋へと引越してきた。
新しい住まい。
新しい家庭。
新しい家族。
俺達の新しいスタート。
沢山の荷物を片付けながら、俺は、心地よい疲労感に浸っていた。
ただ、そこには一人浮かない顔をした彼女が居た。
「どした? 疲れたん?」
「ううん。何でもない。」
そう言ったきり、彼女は虚ろな目で遠くを見つめていた。
そして一言。
「帰りたい‥‥。」
そう呟いた。
俺は失望した。
(新しいスタートの日に、何もそこまで言うとは‥‥。)
そして、二人の この先に未来は無いと直感した。
ある夜の事。
「なぁ。何で来たん? 」
「毎日そんな辛そうな顔してるくらいなら、越して来なくても良かったやん。」
「あたし、前に言ったよね。りくの事、好きかどうか分からないって。。」
「あぁ。言うたな。」
「でも、俺は、10月に来いとは言うてないやん。いつまでも待つって言うたやろ?」
「10月に来ることを決めたのはサキ自身やん。俺は、サキが今度こそ決心してくれたんだとばかり思うてたんや。」
「でも、それは俺の思い違いだったみたいやな。」
「‥‥‥‥‥‥。」
その夜は、お互い それっきりで眠りについた。
空の大きな三日月だけが俺達を見つめている様だった。